●黒ぶちメガネがトレードマークの中大 4年生が、日本人トップの「5位」に入った。初マラソンの堀尾謙介(22)が 2時間10分21秒で走り、学生初となる20年東京五輪の代表選考会「マラソン・グランドチャンピオンシップ」の出場権を獲得した。冷たい雨が降り注ぎ、日本記録保持者の大迫傑(27=ナイキ)が途中棄権するなど波乱のレースで快走した。37キロ手前。日本勢トップを走った佐藤悠基(32=日清食品グループ)をかわし、追いすがるライバルを引き離す。ゴールに迫り、しきりに振り向くも、トレードマークの黒縁眼鏡が曇って戦況を把握できなかった。快挙を知ったのはフィニッシュの後だった。ゴールまで残り 800メートルを切った。37キロ付近で「日本人トップ」に立った堀尾は余力がなかった。今井、藤川との距離を確認するため、後ろを振り返った。気温 4.8度、肩で息をしていた。その黒縁メガネは曇りがかっていた。もう前を見て、走るしかない。フィニッシュラインを越えると、足がもつれ、倒れた。日本人トップはゴール後に知った。ノーマークの存在だった。25キロ地点の給水を取り損ね、隣を走っていた藤川にお願い。面識はなかったが、無事にボトルをもらえ感謝した。視力は両目0.05。小 3からメガネがトレードマークだ。MGCは「チャレンジャー」として挑む。東京五輪へつながる半年後の舞台。再びのビッグサプライズを巻き起こす。東京・日野市の中大寮近くの河川敷を向かい風の中で走り込んできた。冬の朝は氷点下にもなる。ときに指揮官には自ら練習内容と狙いを提案する。藤原正和監督(37)は言い表す。 4月から強豪のトヨタ自動車に進む。次戦は「MGC」となる見込みだ。群雄割拠の男子マラソン界に新しい風を吹かせる。
記事をまとめてみました。
東京マラソンを「日本人1位」でゴールする堀尾謙介選手=東京都千代田区・東京駅前
<陸上:東京マラソン>◇3日◇東京都庁前~東京駅前(42・195キロ)
黒ぶちメガネがトレードマークの中大 4年生が、「日本人トップ」の「5位」に入った。初マラソンの堀尾謙介が 2時間10分21秒で走り、学生初となる20年東京五輪の代表選考会「マラソン・グランドチャンピオンシップ」の出場権を獲得した。冷たい雨が降り注ぎ、日本記録保持者の大迫傑が途中棄権するなど波乱のレースで快走した。
ゴールまで残り 800メートルを切った。37キロ付近で日本人トップに立った堀尾は余力がなかった。今井、藤川との距離を確認するため、後ろを振り返った。気温 4.8度、肩で息をしていた。その黒縁メガネは曇りがかっていた。「視界がぼやけていて、後ろがどの位置にいるか、正直分からなかった」。もう前を見て、走るしかない。フィニッシュラインを越えると、足がもつれ、倒れた。日本人トップはゴール後に知った。
東京マラソンを「日本人1位」でゴールした堀尾謙介選手は転倒する=東京都千代田区・東京駅前
ノーマークの存在だった。初マラソンだけに「ダメだったらダメでもいい」と大きなストライドを生かして攻めた。すると学生では初となるMGCの出場権が付いてきた。「ワンチャン取れればいいかなぐらいのつもりだった。自分自身、MGCが取れたことに驚いています。現実なのか」と笑った。25キロ地点の給水を取り損ね、隣を走っていた藤川に「もらえますか?」とお願い。面識はなかったが、無事にボトルをもらえ「藤川さんが優しい方でよかった」と感謝した。
視力は両目0.05。小 3からメガネがトレードマークだ。中 3時にコンタクトレンズに変更した時があるが「誰?」と言われ続け、 3日でメガネに戻した。現在、メガネはこの日使用した約 4万円のものと「普段用」「予備用」の 3個持つ。また春に新メガネを「買おうかな」と言い、曇り止めレンズを勧められると、前向きだった。
メンタル面が課題だった。中大は「全日本大学駅伝」で予選落ち。春先は体調不良に苦しみ、走れなかったこともあって「陸上に向き合えないです」と夏に 1週間、チームを離脱した。すでに卒業後はトヨタ自動車で競技を続けることは決まっていた。藤原監督から「どういう覚悟でやっているのか。何を得るために陸上をやっているのか、そこを突き詰めて考えて、自分なりの考えをもって帰ってきなさい」と諭された。競技から離れることで「陸上が好きだな」と再確認。覚悟を決め、甘えを捨てた。
MGCの出場権を獲得し、チケットを手にする堀尾謙介選手=東京都千代田区・東京駅前
MGCは「チャレンジャー」として挑む。東京五輪へつながる半年後の舞台。再びのビッグサプライズを巻き起こす。
◆東京マラソン:都市型市民マラソンとして07年に設立。17年に25キロ過ぎから高低差が少なく、潮風の影響も軽減されるコースに変更した。18年には設楽悠太が 2時間 6分11秒の日本記録(当時)を樹立した。賞金総額は男女各2025万円で、優勝賞金は各1100万円。世界記録なら3000万円、日本記録なら 500万円が贈られる。「日本男子3位」までで 2時間11分0秒以内、または同 4~ 6位で 2時間10分 0秒以内などの条件でMGCの出場権を得られる。
◆東京マラソンでのMGC出場権獲得条件:日本男子3位までで 2時間11分 0秒以内、または同 4~ 6位で 2時間10分 0秒以内でMGC出場権が得られる。また順位を満たさなくても、男子は 2時間 8分30秒以内、女子は 2時間24分 0秒以内を記録すれば、ワイルドカードで出場権獲得。
東京駅をバックにフィニッシュする堀尾謙介選手。雨の東京都心を駆け抜けた=東京都千代田区・東京駅前
「2020年東京五輪マラソン」代表選考会「グランドチャンピオンシップ(MGC)」( 9月15日)の出場権を争う大会。男子は初マラソンとして臨んだ中大 4年の堀尾謙介が、 2時間10分21秒で日本勢最高の「5位」だった。“最強眼鏡ランナー”を目指す大学生は日本記録保持者でプロの大迫傑らを抑え、日本陸連が定める条件( 3位までで 2時間11分 0秒以内)を満たして、学生初のMGC切符をつかんだ。
プロランナーでも実業団選手でもない。箱根路ではなじみの白地に赤の「C」マークが入ったシャツを着た中大生は、日本勢トップでゴールテープを切ると、地べたに倒れ込んだ。死力を尽くし、学生初のMGC切符をつかんだ堀尾は、いかにも若者らしい言葉を記者会見で口にした。
「MGCはワンチャン(ワンチャンスの略)取れればいいかなと思っていた。本当に現実かな」
「日本人トップ」でゴールする中央大學・堀尾謙介選手=東京都千代田区・東京駅前
東京都心の気温は 6度を下回った。雨でぬれた全身の体温を、冷たい風が奪う。プロランナーの大迫は29キロ地点で棄権。消耗戦となったが、先頭集団に中間地点で 1分半近く遅れた 183センチの大型ランナーは次々と失速する有力選手を尻目に、淡々とペースを刻み、追い上げた。
37キロ手前。日本勢トップを走った佐藤悠基をかわし、追いすがるライバルを引き離す。ゴールに迫り、しきりに振り向くも、トレードマークの黒縁眼鏡が曇って戦況を把握できなかった。「眼鏡で視界がぼやけて、後ろが来ているかとひやひやした」。快挙を知ったのはフィニッシュの後だった。
「持ち味は長距離で押していけること」と、大学 3年時からマラソン強化に着手。2010年大会覇者の藤原正和監督の下、駅伝練習と並行して距離を踏んだ。「2区5位」だった今年の箱根駅伝後は 1週間の休養をはさみ、これまで40キロを 2度走破。藤原監督が中大 4年時にマークした「日本学生歴代トップ」の 2時間 8分12秒には及ばなかったが、限られた調整期間で迎えた初マラソンで、「同6位タイ」の 2時間10分21秒を記録した。
「日本人トップ」でゴールした中央大學・堀尾謙介選手=東京都千代田区・東京駅前
東京・日野市の中大寮近くの河川敷を向かい風の中で走り込んできた。冬の朝は氷点下にもなる。「悪天候の耐性はそれで付いたのかな」。ときに指揮官には自ら練習内容と狙いを提案する。藤原監督は「陸上脳(偏差値)が高い」と言い表す。
4月から強豪のトヨタ自動車に進む。次戦は「MGC」となる見込みだ。「東京五輪に挑戦する権利をもらえた。MGCではチャレンジャーとして食らいつきたい」。自身のツイッターのプロフィル欄に「最強のメガネランナーになる」と書き記す22歳が、群雄割拠の男子マラソン界に新しい風を吹かせる。
◆主催:東京マラソン財団
◆共催:日本陸上競技連盟、東京都、フジテレビジョン、産経新聞社ほか
◆後援:サンケイスポーツほか
◆主管:東京陸上競技協会
◆特別協賛:東京メトロ
優勝したエチオピアのレゲセ選手=東京都千代田区・東京駅前
■日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダー
「若い学生の堀尾くんが出てきた。まだまだ伸びる余地のある選手だと思っている」
★強化から 1年
世界選手権で 3度、日の丸を背負った藤原監督は、堀尾の力走に目を細めた。大学 3年の冬にマラソン挑戦を望んだ教え子には「覚悟がないとできない」と言葉をかけ、駅伝練習と両立させた。自身の日本学生記録には届かなかったが、冷静に自己分析しながら練習する姿勢などから、将来的には 2時間 5分台も目指せる大器と説明。学生初の「MGC切符」獲得を「120点」と評価した。
2019年箱根駅伝、中央大學2区・堀尾謙介選手(右)=鶴見中継所
★堀尾謙介(ほりお・けんすけ)という男
◆生まれ:1996(平成 8)年 8月12日生まれ、22歳。兵庫・姫路市出身。
◆経 歴:中学で本格的に競技を始める。兵庫・須磨学園高から中大に進み、箱根駅伝は 2年時から 3年連続で 2区を走る。 2年時は関東学生連合として出場(オープン参加のため順位は付かず)、中大で出場した 3年時は「8位」、 4年時は「5位」。
◆自己ベスト: 1万メートルは28分34秒54、ハーフマラソンは 1時間 1分57秒。
◆幼少期から健脚:小学生の頃、校内のマラソン大会で毎年「10位」以内に入った。
◆視力:両目とも0.05。「ぶれない。フィット感がある」とオークリー社の眼鏡をかけて走る。中学 3年時に一度コンタクトレンズを試したが、「眼鏡の印象が強かったみたいで(友人が)『誰?』って。悲しかった」。
「日本人トップ」でゴールした中央大學2区・堀尾謙介選手。ゴール直後に倒れ込んだ(203番)=東京都千代田区・東京駅前
◆進 路: 4月から、マラソン男子で「東京五輪代表」を目指す服部勇馬らが所属するトヨタ自動車に進む。
◆好きな食べ物:ケーキなどの甘いもの。
◆好きな芸能人:元女優の堀北真希さん。
◆サイズ: 183センチ、61キロ。
★MGC出場資格獲得条件
東京マラソンでは「日本男子3位」までで 2時間11分 0秒以内、または同「4~6位」かつ 2時間10分 0秒以内。既に「MGC出場権」を持つ選手は順位に含まない。ほかに、国際陸連が世界記録を公認する大会で男子は 2時間 8分30秒以内で走るか、 2レースの平均が 2時間11分 0秒以内、女子は 2時間24分 0秒以内をマークするか 2レース平均 2時間28分 0秒以内の場合。2017年 8月から2019年 4月末の間の記録が対象となる。