●日本高野連は20日、「夏の甲子園大会」と出場権をかけた「地方大会」の中止を発表した。各地方で独自の単独大会開催への動きがあり、日本高野連、朝日新聞も財政面の援助など 3年生最後の舞台へ今後も知恵を絞る。だが、「新型コロナウイルス感染拡大」は収束傾向ながら第 2波、第 3波が懸念される。日本高野連の八田英二会長(71)は、秋季大会や来春のセンバツ開催も予断を許さない状況と明かした。球児たちに一番大切な夏の甲子園が、中止になった。大阪市内の日本高野連事務局でオンラインでの運営委員会、理事会を開いて正式決定。夏の甲子園中止は 3度目で、センバツと春夏連続の中止は戦争での中断を除いて初めてだ。 3年生は「新型コロナウイルス」の影響で最後の夏を奪われた。八田会長は思いやった。約3800校が参加する全国の「地方大会」での「感染リスク」を完全になくすことは難しかった。 5月の連休明けに緊急事態宣言が解除されず、休校延長したことが決定打となった。夏休みの短縮など学業の遅れを取り戻すための支障になりかねず、 3月から部活動を再開できていない学校も多い。故障の危険も否定できなかった。今春涙をのんだ32校の救済策は何も決まっていない。もし秋季大会が中止になれば、来春のセンバツに出場させてはというプランも浮上するかもしれない。だが、3年生は取り返せない。その無念は計り知れない。歴史的決断が下された一日。「コロナ禍」はどこまで続くのか。
●日本高野連と朝日新聞社は20日、「第102回全国高校野球選手権大会」( 8月10日開幕予定)の「WEB運営委員会」を開き、中止を決定した。「新型コロナウイルス感染」は減少傾向にあるが、安全確保が難しいと判断し、「49地方大会」も中止とした。「地方大会」に代わる都道府県の独自大会開催は地方の自主性に任せる方針。今春の選抜大会に続く全国大会の中止となった。「夏の甲子園大会」と「地方大会」が戦後初の中止。午後 6時からのWEB会見で日本高野連の八田英二会長は苦渋の決断を吐露した。中止に至った最大の理由は「地方大会」の問題だ。全国約3800校参加で 6月下旬から 8月初めに約 250球場で開催予定だったが、「感染リスク」をなくせない。長期間の休校や部活動停止で、練習が十分でない選手のけがの心配も。授業時間確保のための支障にもなりかねない。医療スタッフに球場常駐を頼める状況ではない。公的球場の使用制限の可能性もある。全国からチームが移動、宿泊する甲子園大会のリスクもあった。前提となる代表を決める「地方大会」開催に踏み切れなかった。戦後初の夏の甲子園中止、史上初の春夏甲子園中止…春季大会、練習試合もほぼ未消化で練習すら満足にできていない選手たち。特に 3年生たちに最後の舞台を用意するために…。約 1カ月の準備期間で、未曽有の厄難から、一歩踏み出せるのか。地方が急ピッチで動く。
●「新型コロナウイルス感染拡大」が落ち着き、各地区大会で秋季大会が開催されれば、 3年生にもう 1度甲子園のチャンスを与えることもできるのでは? 西日本地区のある高野連関係者は、本来は 1、 2年生だけの秋季大会に特例で 3年生を参加させる私案を口にした。各地区で代替大会の開催も検討されているが、秋の方が学校再開後の準備期間も長くなる。 3年生と“最後の秋”を戦うことを選択するチームもあっていいと話す。秋の地区大会で勝ち上がれば、来年のセンバツ出場のチャンスもある。 3年生がプロや社会人、大学に進んでいたとしても、特例で参加を認めれば甲子園でプレーすることもできると、 3年生の救済策を語った。
●天理(奈良)の中村良二監督(51)は、 3年生のための代替大会開催を願った。多くの 3年生部員がいる学校は 2チーム、 9人に満たない学校は合同チームの編成などで“卒業”の機会をつくることを提案した。この日は夕刻に野球部のグラウンドでミーティングを開催。出場を決めていたセンバツ中止後は、監督は涙ながらに訴え、部員も泣いた。だがこの日は、だれも泣かなかった。ただ笠井要一野球部長(34)は甲子園という目標を失った部員に呼びかけた。
●明徳義塾(高知)・馬淵史郎監督(64)が20日、夏の甲子園中止の決定を受け、心境を明かした。今年のセンバツに続き、夏も甲子園出場の夢は消えた。「新型コロナウイルスの感染拡大」の影響を受け入れるしかなかった。無念の結果になったが、指導者として、選手が前を向いて日々を過ごすことを強く願った。
●大阪桐蔭は 3年生全員が甲子園の土を踏めないまま、高校野球を終える。西谷浩一監督(50)は無念さをにじませた。大阪府高野連は、独自の大会開催も視野に入れて検討中。教え子を思いやる。平成の甲子園最多タイの「63勝」。最強王者として聖地に君臨してきた。現 3年生は中日根尾昂内野手(20)ら「黄金世代」が春夏連覇を達成した18年の夏をスタンドから見届けた。今春、その時以来となる甲子園切符を手にしたが無念の中止。 2年ぶり出場を目指した夏の舞台も消滅した。教え子たちを襲った酷過ぎる状況。指揮官は、今は寄り添うことを考え、教え子の顔を思い浮かべた。
●仙台育英(宮城)が「多くの人たちと感動を分かち合える野球部」を合言葉に、「新型コロナウイルス」収束後の新たな企画を明かした。同校は休校が続いており、20日は田中祥都主将( 3年)とエース左腕・向坂優太郎投手( 3年)、須江航監督(37)がオンラインで取材対応。部員らは連日のオンラインミーティングなどで議論を重ね、甲子園が中止となった場合に自分たちに何が出来るのかを考えながら覚悟を決めてきた。学校行事なども中止を余儀なくされた小 6や中 3の子どもたちの思いを少しでも和らげるため、野球の大会だけでなく、運動会、文化祭、合唱コンクールなども同校野球部主催で行う計画を進めている。今春のセンバツ出場予定だった鶴岡東(山形)、磐城(福島)の 3校で 4月26日に予定していた「東北限定ミニセンバツ大会」の実施も諦めていない。甲子園で実況予定だったアナウンサーを迎えてネット中継を行う準備も整えている。
●プロ野球サイドが今秋、プロ志望届を提出した高校生を対象に「合宿形式のトライアウト」を検討していることが20日、分かった。大舞台に強い、より実戦的な選手の発掘が狙い。アピールの場は甲子園だけじゃない。野球界の発展へ、尽力する!大阪桐蔭、星稜、智弁和歌山…。金の卵たちよ、「夏の甲子園大会」の中止が決まっても、モチベーションを下げる必要はない。大舞台での活躍を目指していた球児たちにアピールの場が用意される可能性が浮上した。今秋、高校球児を対象としたトライアウトの実施をプロ野球サイドが検討していることが分かった。「コロナの収束」が絶対条件にはなるが、球児にとって最大の救済策となりそうだ。実際、甲子園という大舞台で活躍したことで一気に「ドラフト上位候補」に跳ね上がる選手は多い。1974年には鹿児島実・定岡正二元投手(63)が鹿島県勢初の「4強」に導き、巨人から「1位指名」。2016年夏に「優勝」した作新学院・今井達也投手(現西武=22)や、18年夏に「準優勝」した金足農・吉田輝星(現北海道日本ハム=19)はともに評価を上げ、「1位指名」された。大舞台に強い。それがプロで生きていく一つの指標になる。プロ側にとってもメリットが多い。これまでにも巨人や広島、オリックスなどが入団テストを行ってきたが、実戦を行うことで、より実力を把握しやすくなる。今後、各都道府県が独自に開催するとみられる「地方大会」については「新型コロナウイルスの感染防止策」により、スカウト陣が入場できない可能性があり、貴重な機会となる。あるプロ野球球団の関係者によると、11日に東京都内で開催された代表者会議の中でも、「新トライアウト」について、意見交換され、継続審議になったという。関東圏に集中するのではなく、各地方ごとに分けて行うプランもある。
記事をまとめてみました。
日本高野連は20日、「夏の甲子園大会」と出場権をかけた「地方大会」の中止を発表した。各地方で独自の単独大会開催への動きがあり、日本高野連、朝日新聞も財政面の援助など 3年生最後の舞台へ今後も知恵を絞る。だが、「新型コロナウイルス感染拡大」は収束傾向ながら第 2波、第 3波が懸念される。日本高野連の八田英二会長(71)は「長期的なコロナとの戦い」と位置づけ、秋季大会や来春のセンバツ開催も予断を許さない状況と明かした。
◇ ◇ ◇
球児たちに一番大切な夏の甲子園が、中止になった。大阪市内の日本高野連事務局でオンラインでの運営委員会、理事会を開いて正式決定。夏の甲子園中止は 3度目で、センバツと春夏連続の中止は戦争での中断を除いて初めてだ。 3年生は「新型コロナウイルス」の影響で最後の夏を奪われた。八田会長は「心が折れる思いかもしれない。みなさんが大会出場を目指した球児という栄冠は永遠に輝いています」と思いやった。
「第102回全国高校野球選手権大会」の中止を発表する朝日新聞社の渡辺雅隆社長 (朝日新聞デジタルより)
約3800校が参加する全国の「地方大会」での「感染リスク」を完全になくすことは難しかった。 5月の連休明けに緊急事態宣言が解除されず、休校延長したことが決定打となった。夏休みの短縮など学業の遅れを取り戻すための支障になりかねず、 3月から部活動を再開できていない学校も多い。故障の危険も否定できなかった。八田会長は「全国の部員がベストコンディションで、フェアな条件で試合に臨めない。痛恨の極み」と厳しい表情で話した。
甲子園での全国大会は全国からの移動や宿泊を伴い、「コロナの感染拡大リスク」は避けられない。無観客開催も検討したが、大会延期は考えなかったという。
この日、愛知県高野連などが独自大会の開催検討を発表した。各都道府県の代替大会について、八田会長は「各地方それぞれの高野連の自主的な判断に任せる」。無観客開催などで経費的に厳しい地方には、日本高野連と朝日新聞が財政的な援助を行うことが決まった。 3年生に何とか晴れ舞台をという思いは変わらない。各高野連から相談されれば、専門家のアドバイスや積み上げた感染防止策を惜しまず伝える。
「第102回全国高校野球選手権大会」の中止を発表する日本高等学校野球連盟の八田英二会長(右)と朝日新聞社の渡辺雅隆社長 (朝日新聞デジタルより)
だが、新チームの中心となる 2年生たちにとっても予断を許さない状況が続く。「コロナ」はひとまず収束傾向にあるとはいえ、未知のウイルスの先行きは不透明だからだ。八田会長は「専門家が(コロナの)第 2波、第 3波が来るのは確実と言っている。終息の見込みが立たないところで、長期的な闘いである。秋についても長期的、中期的に感染状況がつかめない。その時に考えさせていただく」と説明した。センバツ出場校の重要な選考資料になる秋季大会は開催できる保証はない。、最悪、センバツが中止になる可能性を否定しなかった。
今春涙をのんだ32校の救済策は何も決まっていない。もし秋季大会が中止になれば、来春のセンバツに出場させてはというプランも浮上するかもしれない。だが、3年生は取り返せない。その無念は計り知れない。歴史的決断が下された一日。「コロナ禍」はどこまで続くのか。
球児の夏が残った! 日本高野連と朝日新聞社は20日、「第102回全国高校野球選手権大会」( 8月10日開幕予定)の「WEB運営委員会」を開き、中止を決定した。「新型コロナウイルス感染」は減少傾向にあるが、安全確保が難しいと判断し、「49地方大会」も中止とした。「地方大会」に代わる都道府県の独自大会開催は地方の自主性に任せる方針。今春の選抜大会に続く全国大会の中止となった。
「夏の甲子園大会」と「地方大会」が戦後初の中止。午後 6時からのWEB会見で日本高野連の八田英二会長は「球児に中止を伝えるのは断腸の思い。暗くなるまで練習に励んだ3年生は集大成の場がなくなり、心折れる思いだと思う」と苦渋の決断を吐露した。
中止に至った最大の理由は「地方大会」の問題だ。全国約3800校参加で 6月下旬から 8月初めに約 250球場で開催予定だったが、「感染リスク」をなくせない。長期間の休校や部活動停止で、練習が十分でない選手のけがの心配も。授業時間確保のための支障にもなりかねない。医療スタッフに球場常駐を頼める状況ではない。公的球場の使用制限の可能性もある。
全国からチームが移動、宿泊する甲子園大会のリスクもあった。しかし「全国大会はできるかもしれないが、全部の地方を安全にはできない」(渡辺雅隆朝日新聞社社長)と、その前提となる代表を決める「地方大会」開催に踏み切れなかった。
昨夏の大阪大会の開会式に臨む履正社ナイン。夏の甲子園連覇がかかっていた=阪神甲子園球場
大会中止を決めた主催者。その一方で都道府県高野連が独自大会を検討している点について「地方それぞれどのような判断をするか、自主性に任せようというのが基本姿勢」と八田会長。甲子園が中止になったことで 8月にかかる期間まで視野に、大会を原則無観客で目指すことを承認した。
感染状況、授業の問題、参加校は地方によって異なる。すべてが通常の日程、試合数は無理でも、 1試合でもプレーする場が可能かなど模索している。
「『コロナの感染拡大』のそれぞれの情勢判断でやっていただく。こうしてほしい、したくないというつもりはない。相談があればアドバイス等させていただく」
八田会長が言うように日本高野連では状況によって 3段階程度の感染対策マニュアルを用意。無観客開催で、財政面の問題を不安視する地方もあるが「もし支援できるなら限界はあるが、承認したい」と約束した。
戦後初の夏の甲子園中止、史上初の春夏甲子園中止…春季大会、練習試合もほぼ未消化で練習すら満足にできていない選手たち。特に 3年生たちに最後の舞台を用意するために…。約 1カ月の準備期間で、未曽有の厄難から、一歩踏み出せるのか。地方が急ピッチで動く。
WEB会議で中止の理由を説明する日本高野連・八田英二会長 (代表撮影)
★大阪、和歌山など開催前向き
大阪府高野連の草島副会長は「地方大会」が一律で中止となったことに驚きながら「 9月にずれ込んでも仕方ないので、 3年生にとっての『引退試合』になる大会が行えれば」と独自の代替大会開催に前向きな姿勢を示した。和歌山県高野連も積極的。東京都高野連は 7月11日から東西に分かれて大会開催を検討する。武井克時理事長は「できる限り開催を模索してあげるのが高野連の役割。 3年生の最後の締めくくりをやってあげたい」と語った。一方、京都府高野連の米川理事長は「選手権と代替大会は生徒にとって重みがちがう。できるとは簡単にいえない」と慎重だった。
★「夏の甲子園大会」 中止アラカルト
◆第 4回大会(1918年) 「地方大会」で全代表が決まっていたが、大会直前に米騒動が勃発したため初めて中止となった。
◆第27回大会(41年) 戦局が悪化したため、切符を懸けた「地方大会」の途中で中止に。42-45年は中断、46年の「第28回大会」から再開した。
★高校スポーツを巡る動き
◆ 3月11日 日本高野連が臨時運営委員会で「第92回選抜大会」の中止を決定。予定されていた大会の中止は選抜大会史上初。
明徳義塾・馬淵史郎監督(左端)がナインに「夏の甲子園大会」の中止を伝える (代表撮影)
◆ 4月 6日:沖縄県高野連が春季沖縄大会を準々決勝で打ち切ることを決定。
◆ 同 13日:全国 9地区の高校野球春季大会が全て取りやめに。
◆ 同 20日:47都道府県全てで高校野球春季「地方大会」の取りやめが決定。
◆ 同 26日:全国高体連が今夏の全国高校総合体育大会(インターハイ)中止を発表。中止は史上初めて。
◆ 5月20日:日本高野連は運営委員会と理事会で「第102回全国選手権大会」の中止を決定。中止は戦後初。
◇夏の甲子園大会◇
1915年に「第1回大会」が大阪・豊中で「全国中等学校優勝野球大会」として開催され、京都二中が「優勝」した。球児の憧れの舞台となっている甲子園球場は24年の「第10回大会」から使用。西宮球場が使われたこともある。58年の「第40回記念大会」で初めて全国47都道府県の代表校が参加。2018年に節目の「100回目」を迎え、昨夏は履正社8大阪)が「全国制覇」した。最多優勝は中京大中京8愛知)の 7度で、広島商が 6度で続く。松山商(愛媛)と大阪桐蔭は、それぞれ 5度制している。
阪神甲子園球場
「新型コロナウイルス感染拡大」が落ち着き、各地区大会で秋季大会が開催されれば、 3年生にもう 1度甲子園のチャンスを与えることもできるのでは? 西日本地区のある高野連関係者は、本来は 1、 2年生だけの秋季大会に特例で 3年生を参加させる私案を口にした。「秋の大会に参加できる選手の生年月日の部分を変更して 3年生も参加できるようにすれば」と話す。
各地区で代替大会の開催も検討されているが、秋の方が学校再開後の準備期間も長くなる。「 3年生の先輩と一緒にもっと試合をしたかったという 2年生、 1年生もいる」と、 3年生と“最後の秋”を戦うことを選択するチームもあっていいと話す。
秋の地区大会で勝ち上がれば、来年のセンバツ出場のチャンスもある。「卒業式は 3月 1日でも、そこは学校の代表として認めてあげればいいのでは」。 3年生がプロや社会人、大学に進んでいたとしても、特例で参加を認めれば甲子園でプレーすることもできると、 3年生の救済策を語った。
日本高野連は20日、第102回全国高校野球選手権大会( 8月10日開幕、甲子園)の中止を決定した。
◇ ◇ ◇
天理(奈良)の中村良二監督は、 3年生のための代替大会開催を願った。「もし夏に県の大会をやっていただけるなら、他校も含めて全 3年生が試合に出られるように」と説明。多くの 3年生部員がいる学校は 2チーム、 9人に満たない学校は合同チームの編成などで“卒業”の機会をつくることを提案した。
天理・中村良二監督 (2020年 1月24日撮影)
この日は夕刻に野球部のグラウンドでミーティングを開催。出場を決めていたセンバツ中止後は、監督は涙ながらに「夏を目指そう」と訴え、部員も泣いた。だがこの日は、だれも泣かなかった。ただ笠井要一野球部長は「今は下を向いていいんだよ」と甲子園という目標を失った部員に呼びかけた。中村監督は「 3年生の思いには、他のことで応えてはあげられない。ただ、大好きな野球をやってきて、野球が好きなままで卒業してほしいですから」と語った。
明徳義塾・馬淵史郎監督が20日、夏の甲子園中止の決定を受け、心境を明かした。
今年のセンバツに続き、夏も甲子園出場の夢は消えた。「社会情勢から言えば、しようがない。残念のひと言だ。野球部は全寮制で、親元を離れて、明徳で 3年間、野球をやって、甲子園を目指したいという人間が全員だからね。その目標がなくなってしまったのは、つらい。言葉がないよ。子どもが夢を追いかけるために、ここに来させてくれた親御さんもそうだろう」。「新型コロナウイルスの感染拡大」の影響を受け入れるしかなかった。
明徳義塾・馬淵史郎監督 (2019年 7月28日撮影)
無念の結果になったが、指導者として、選手が前を向いて日々を過ごすことを強く願った。「選手にはグラウンドでこう言い続けてきたんよ。高校野球の目的は人間づくり、目標は日本一。目標は変えないといけなくなったけどね。この経験を将来に生かしてくれたら、指導者として、これ以上の幸せはない」。
日本高野連と主催の朝日新聞社は20日、「第102回全国高等学校野球選手権大会」の運営委員会をウェブ会議で行い、 8月10日から開幕予定だった甲子園大会と、49代表校を決める「地方大会」の中止を決定した。
◇ ◇ ◇
大阪桐蔭は 3年生全員が甲子園の土を踏めないまま、高校野球を終える。西谷浩一監督は「覚悟しているつもりだったけど、 3年生の顔が浮かんできて心が痛いです。甲子園の『日本一』を目指して大阪桐蔭に集まった子たち。厳しい練習をさせてきてこんな形で何も試合をさせてやれない。監督として何かしてあげられることはないかと、無力さを今は感じます」無念さをにじませた。
大阪桐蔭・西谷浩一監督 (2019年 7月20日撮影)
大阪府高野連は、独自の大会開催も視野に入れて検討中。「そういう大会があるなら、もしやってもらえるなら 3年生の目標になるしありがたい。次のステージに向けて準備にもなる」と教え子を思いやる。
平成の甲子園最多タイの「63勝」。最強王者として聖地に君臨してきた。現 3年生は中日根尾ら「黄金世代」が春夏連覇を達成した18年の夏をスタンドから見届けた。今春、その時以来となる甲子園切符を手にしたが無念の中止。 2年ぶり出場を目指した夏の舞台も消滅した。教え子たちを襲った酷過ぎる状況。指揮官は「今日 1日で気持ちが晴れるほど甲子園は軽いものじゃない。なんとか前に進む道しるべをつくってあげたい」。今は寄り添うことを考え、教え子の顔を思い浮かべた。
仙台育英(宮城)が「多くの人たちと感動を分かち合える野球部」を合言葉に、「新型コロナウイルス」収束後の新たな企画を明かした。
同校は休校が続いており、20日は田中祥都主将( 3年)とエース左腕・向坂優太郎投手( 3年)、須江航監督がオンラインで取材対応。田中主将は「悔しい思いをしているのは自分たちだけではない。苦しんでいる人たちのために出来る取り組みにも力を尽くしていきたい」。向坂も「高校野球生活を完結させるためにも、『コロナ』の問題で悩んでいる地域の皆さまを助けてあげられるような活動もしたい」。部員らは連日のオンラインミーティングなどで議論を重ね、甲子園が中止となった場合に自分たちに何が出来るのかを考えながら覚悟を決めてきた。学校行事なども中止を余儀なくされた小 6や中 3の子どもたちの思いを少しでも和らげるため、野球の大会だけでなく、運動会、文化祭、合唱コンクールなども同校野球部主催で行う計画を進めている。
オンラインで取材に応じる仙台育英・須江航監督
今春のセンバツ出場予定だった鶴岡東(山形)、磐城(福島)の 3校で 4月26日に予定していた「東北限定ミニセンバツ大会」の実施も諦めていない。同監督は「出来ることなら保護者を含めて 1人でも多くの人に応援もしてほしい」と模索中。甲子園で実況予定だったアナウンサーを迎えてネット中継を行う準備も整えている。
球児に救済案! プロ野球サイドが今秋、プロ志望届を提出した高校生を対象に「合宿形式のトライアウト」を検討していることが20日、分かった。大舞台に強い、より実戦的な選手の発掘が狙い。アピールの場は甲子園だけじゃない。野球界の発展へ、尽力する!
大阪桐蔭、星稜、智弁和歌山…。金の卵たちよ、「夏の甲子園大会」の中止が決まっても、モチベーションを下げる必要はない。大舞台での活躍を目指していた球児たちにアピールの場が用意される可能性が浮上した。今秋、高校球児を対象としたトライアウトの実施をプロ野球サイドが検討していることが分かった。
球界関係者の話を総合すると、新しいトライアウトはプロ志望届を提出した選手が対象。関東圏の全天候型球場に招集をかけ、 2泊 3日前後で合宿をする。そこにプロのスカウト陣が集結。プロと同様、木製バットを使用し、複数の試合を開催する。
「コロナの収束」が絶対条件にはなるが、球児にとって最大の救済策となりそうだ。
実際、甲子園という大舞台で活躍したことで一気に「ドラフト上位候補」に跳ね上がる選手は多い。1974年には鹿児島実・定岡正二が鹿島県勢初の「4強」に導き、巨人から「1位指名」。2016年夏に「優勝」した作新学院・今井(現西武)や、18年夏に「準優勝」した金足農・吉田輝(現日本ハム)はともに評価を上げ、「1位指名」された。大舞台に強い。それがプロで生きていく一つの指標になる。
昨年 4月、奈良県内で行われた「U-18合宿」に参加していた(右から)大船渡・佐々木朗希投手、横浜・及川雅貴投手、星稜・奥川恭伸投手ら。救済トライアウト構想が浮上した
プロ側にとってもメリットが多い。これまでにも巨人や広島、オリックスなどが入団テストを行ってきたが、実戦を行うことで、より実力を把握しやすくなる。今後、各都道府県が独自に開催するとみられる「地方大会」については「新型コロナウイルスの感染防止策」により、スカウト陣が入場できない可能性があり、貴重な機会となる。
あるプロ野球球団の関係者によると、11日に東京都内で開催された代表者会議の中でも、「新トライアウト」について、意見交換され、継続審議になったという。関東圏に集中するのではなく、各地方ごとに分けて行うプランもある。
球児たちよ、前を向こう。決して終わりじゃない。プロ野球界ができる限りのサポートをする。
★都道府県独自大会のスカウト観戦 12球団に相談
都道府県レベルで独自の大会が開催されるにしてもプロ12球団のスカウトが観戦できるかは未定だ。日本野球機構(NPB)の井原敦事務局長は「高野連などに、ご相談ベースで話をしなければいけない」としており、この日は「22日の『12球団代表者会議』で(出席者に意見を)おうかがいしたい」と語った。